聖木曜日ミサ
2005年3月24日
新潟教会


 最後の晩餐における主イエスによる聖体の秘蹟の制定は、毎日のミサの中で繰り返され、ミサに与り聖体を拝領するごとに、私たちはあの晩イエスによって交わりの宴に招かれた弟子たちと、思いを一つにいたします。
 愛している人から、自分の思いを全く理解してもらえないこと。それどころか、理解してくれていたかに見えた人が、実は全く誤解をしていたことが分かったとき。それはそれは、心情的につらいものです。あの晩のイエスの心に思いを馳せるとき、弟子たちの思いと自らの思いが交わらず、悲しみに満ちあふれていたのではないかと思うのです。もう今夜で私がおまえたちを手取り足取り教え導くのは終わりなのだぞ、と大声で愛する弟子たちに伝えたいイエスの切々たる思い。肝心の弟子たちはそれを余り理解してはいないという現実。イエスは万感胸に迫りながら、手にパンを取り、またぶどう酒の満ちた杯をとり、自らの体と血として与え、そしてそれを思い起こして繰り返すようにと命じられました。その主イエスの行いが、いかに深い愛に満ちた行為であったのかは、結局復活の出来事を体験するまで、弟子たちには理解されなかったのです。


 当たり前のことでしょうが、わたしたちは知らないことを憶えておくことは出来ません。わたしたちの記憶は、経験したことがあって初めて形成されるのですから、知らないことを記憶していることは、よほどのことがない限りあり得ないはずでしょう。そうであるならば、わたしたちは、イエスがあの晩にパンと杯を与えた後に言われた一言、「私の記念としてこれを行いなさい」に、どうしたら誠実に応えることが出来るのでしょうか。
 「私を憶えていなさい」というイエスの切実な呼びかけに応えるために、実際には出会ったことのない主イエスに、どのようにして出会う努力をしてきたのでしょう。聖書に書かれたイエスの姿や言葉を、心に刻む努力をしているでしょうか。イエスの思いに心の耳を傾ける努力をしているでしょうか。イエスの願いを実現するために、この世界で働いたでしょうか。血の涙を流さんばかりのイエスの切なる願いに、もしわたしたちが真剣に応えていないというのであれば、イエスに対してこれほど酷い仕打ちはないともいえるでしょう。
 聖体祭儀は様々な名前で呼ばれますが、その一つが「感謝の祭儀」です。最後の晩餐がまさしく過ぎ越しの食事であったように、わたしたちはミサに与るときに、イエスがご自身をわたしたちの罪のあがないのために「いけにえ」として捧げられた事を思い起こし、感謝するのです。聖体はわたしたちを、感謝へと導きます。
 しかし聖体祭儀は単に感謝するだけではなく、わたしたちを行動へと誘います。最後の晩餐のあと、イエスが新しい命に復活したことによって、聖体はわたしたち一人ひとりに新しい命を与える、「命のパン」となりました。わたしたちはミサの最中、聖変化が行われた直後に、司祭の「信仰の神秘」という呼びかけに応じて、「主の死を思い復活をたたえよう、主が来られるまで」と応えます。ラテン語規範版には「主の死を思い復活をたたえ告げ知らせよう、主が来られるまで」とあります。聖体祭儀に与ることは、まさしくわたしたちの信仰の神秘を告げ知らせる業、すなわち宣教の業へとわたしたちを駆り立てるのです。
 またわたしたちは聖体拝領にあたって、「キリストの体」と呼びかける司祭に対して、「アーメン」すなわち「その通りである」と自らの信仰を告白します。すなわち、いま拝領する聖体は、まさしくあのイエスの一つの体の部分であり、わたしたちは数多くの聖体を頂いても、常に一つのキリストの体に結びあわされていることを信じて告白するのです。聖体はわたしたちに一致を呼びかけます。


 聖体祭儀としてのミサには、本当に様々な意味合いが込められています。聖体祭儀は感謝の祭儀です。まさしくイエスがその手にパンを取り、裂いて弟子たちに渡したように、聖体祭儀は「わかちあい」の祭儀です。過ぎ越しの食事の型どりでもあることから、わたしたちは聖体を拝領することによって日々、古い自分に死んで新しく生きる決意を新たにいたします。また聖体を拝領することによって、復活されたキリストの一つの体に共に与り一致するのです。共同体において共に主の体に与ることによって、交わりの中に生きる自分を確認します。その交わりの中において、主であるイエスは弟子の足を洗うことによって、お互いへの奉仕における愛のわかちあいの模範を示し、わたしたち一人ひとりにも、同じようにせよと命じておられます。そしてミサという名称そのものがあらわしているように、わたしたちは聖体祭儀から「派遣」されていきます。宣教の業へといざなわれるのです。
 今一度思い起こしましょう。最後の晩餐の夜の、イエスの切なる思いを、わたしたちの心に刻みましょう。復活の命への希望を抱き、また日々自分が新しくされることに感謝しながら、信仰の神秘を真剣に宣言いたしましょう。聖体にましますイエスの現存に対して、心から力強く「アーメン」と宣言しましょう。そして世界の兄弟姉妹と、イエスの聖体において一致した共同体に生きるようにと招かれていることに感謝しながら、共に手をつないで、福音を告げ知らせる生き方を探し求めましょう。