聖ダミアン司祭列聖記念ミサ
2009年11月3日
山形
　
　「私たちは当時、患者たちをカラウパパに隔離するという選択をした人々を批判することはできるかもしれません。しかし私たちすべては、それぞれがちょっとしたことで人をわけ隔ててしまうのです。人をわけ隔てるのに､海や絶壁は必要ありません」
　列聖を記念して、ベルギーの聖ダミアンの眠る地で捧げられたミサにおいて、ホノルルのシルバ司教が説教で語った言葉です。

　山形地区で宣教司牧にあたるイエズス･マリアの聖心会の兄弟会員であるダミアン･デ･ブースター神父が、10月11日、ローマにおいて聖人の列に加えられたことに、新潟教区として、まず修道会会員の皆様に心からお祝いを申し上げます。修道会の会員の中から聖人が誕生するということは、単に会員の誇りとなるだけではなく、修道会のカリスマを模範的に生きた存在として、これからの修道会の歩みに明確な方向性を示す「しるし」を与えられたという意味でも、感謝すべき出来事であると思います。そして新しい聖人の誕生は､全世界の教会の共通した喜びでもあります。とりわけ新しい聖人は見知らぬ存在ではなく、私たちの教区内で働く修道会の存在によって、身近に感じることができる聖人です。私たちは聖ダミアンの生涯から､現代に生きるキリスト者としてのあり方に多くの示唆をいただくことができるのではないかと思います。
　聖ダミアン神父は、当時ハワイのモロカイ島で隔離されていたハンセン病患者と共に生き、その生涯を彼らへの奉仕のために捧げられました。伝記を読みますと､とても頑固な方であったことが知られます。信仰に裏打ちされた頑固さがあったればこそ、当時の想像を絶するような状況の中でも、熱意を失わずに愛の奉仕に生きることができたのではないかと想像いたします。聖ダミアン神父は、困難な状況の中で、そして多くの無理解の直中で、また立ちはだかる常識という壁の前で、さらに見当外れのヒーロー賛美の中で、熱烈な神への信仰に生きるあかしをぶれることなく、身をもって成し遂げたという意味で、証聖者でもあり、また現代の殉教者ともいえる存在ではないでしょうか。

　先ほどのホノルルのシルバ司教は､説教の中で次のように続けます。
　「私たちは毎日のように兄弟姉妹のそばをすり抜けながら、こう言っているのです。『これは私の問題ではない。私には関係ない。私には時間がない』。そして彼らの必要に手を差し伸べようとしないのです」
　大海原と絶壁を持ち出すまでもなく、私たちは人生のさまざまな局面で､自らの人生を優先させることによって、助けを必要としている多くの人たちを、見えないところへと隔離している。そのようにシルバ司教は指摘しているのです。そうであればこそ、目に見える形での隔離政策をとった当時の為政者の選択を批判するならば、今同じような行動原理で生きている自分たちのこの生き方をあらためなければならない、というのです。
　私たちの国においても長年にわたってハンセン病患者の方々への隔離政策が徹底的に実施され、いわば国策によって国を挙げての患者の方々に対する差別が生み出されてきました。カトリック教会も数多くのヒロイックな人物たちの存在を通じて、目に見える形での慈善の業を数多く行ってきたことは事実です。しかし慈善の業は行うものの、患者の方々の現実を別世界のものとする隔離政策に必ずしも明確に反対してこなかったものとして、｢怠りの罪｣を反省しなければならないと思います。まさしく私たちには、「どれほど優しくしたか」ではなく、｢誰と共に生きたのか｣が問われているのだと思います。すなわち、どれほど真剣に人を隔てる壁を取り除く努力をしてきたのかが問われています。

　エフェソ人への手紙に、「実に、キリストはわたしたちの平和であります。二つのものを一つにし、御自分の肉において敵意という隔ての壁を取り壊し」という言葉があります。私たちは､神から等しく生命を与えられた尊厳を持つ人間を、さまざまな理由をもって見えない存在とし隔離するさまざまな壁を､福音の力によって打ち壊す努力をしなければなりません。
　聖ダミアンの人生は､まさしくこの隔ての壁を取り壊すための闘いであったともいえるのではないでしょうか。「闘い」という言葉は大袈裟でしょうか。決してそうではありません。教皇様は列聖式ミサの説教で、こう言われています。
　「この神のみことばの僕は、ハンセン病患者が隔離されていたモロカイ島に向かい、その病気に自らをさらすことによって、苦難の僕となりました。聖ダミアンは私たちがよい闘いを戦うように導きます。その闘いは私たちを分裂に導くのではなく、一致へ導く闘いです」

　私たちが生きている時代は、一致の時代なのか。
　すべての人が分け隔てなく生きることができる、一致の時代なのか。
　はたまた、私たちが生きている時代は､分裂の時代なのか。
　目障りな存在を目に見えない存在としてしまうような､分裂の時代なのか。
　聖ダミアンは一致へと導く闘いのために､モロカイ島へ向かいました。それでは今、私たちが、一致へと導く闘いのために向かうべき地はどこなのか。それが聖人からの問いかけではないでしょうか。
　聖ダミアンの取り次ぎによって、私たちがすべての人々を一致へと導く闘いをより良く戦うことができるように、ともに祈りたいと思います。