坂本耕太郎師司祭叙階式
２００９年５月６日
新潟教会

「安心しなさい。立ちなさい。お呼びだ」
　これから先、私たちは一体どうなるのだろうか。
　将来を見通す力を持ち合わせていない私たちは、常に次なる瞬間の不確実性の中で生きていかなければなりません。その不確実性というものが、それまでの日常の繰り返しの中で経験に基づいたある一定の予測を許す程度の不確実性であるならば、なんとか安心して時を過ごすことができるでしょう。しかし、例えば今現在、新型インフルエンザが世界的に猛威をふるおうとしているときのように、どのような瞬間が次に自分たちの眼前に立ちはだかるのか、これまでの経験から推し量ることが難しい局面に立たされるとき、どうしても私たちは疑心暗鬼の闇の中に引きずり込まれてしまいます。不安に苛まれ進むべき方向を見出しあぐねているとき、そこに突如として進むべき道を教えてくれる何ものかが出現したとしたならば、暗闇に輝く一筋の光を見出したかのように、思わずその光の方向へと一歩を踏み出してしまうことでしょう。ただしその道が、真理と善に基づく道でないならば、その行き着く先は結局のところ、「いのち」を生かすものではないのかもしれません。
　経済の不確実さ、健康の不確実さ、国際関係の不確実さ、人間関係の不確実さ。さまざまな不確実さに包まれて、複雑に絡み合った人間関係の中で生きている私たちは、どうしたら自信を持って進むべき道を見出すことができるのでしょうか。

　復活の体験を通じて、不確実さの中に揺れ動いていた弟子たちは、進むべき確実な道を見出し、それまでとは打って変わって確信に満ちあふれて語り行動するようになりました。道を見出すことによって、変えられたのです。復活されたイエスは、「恐れるな」と語りかけます。「生きるにしても死ぬにしても、私たちは主のものです」とパウロは、確信を持って進むべき道を語ります。先ほど朗読された福音にあって、イエスの招きによって、光を失っていたバルティマイは光を見出します。そのイエスに向かって一歩を踏み出すために、一体何がその時起こったのか。
　イエスの呼びかけを、周りにいた人々がバルティマイに伝える一言が、進むべき方向を、いのちを生かす道を示す言葉となりました。
　「安心しなさい。立ちなさい。お呼びだ」。

　これから司祭に叙階されようとしている坂本耕太郎さんには、不確実さの中に彷徨う人々に向かって、「安心しなさい。立ちなさい。お呼びだ」と真理と善に基づく道を指し示すメッセージを伝えるもの、メッセンジャーになって頂きたいと思います。知識としての宗教を伝えるのではなく、形式としての宗教を伝えるのではなく、イエスの慈しみのまなざしを心に抱いて、多くの人が確信を持って一歩を踏み出すことができるように、人生における真理と救いの道を指し示して頂きたい。確信を持って進むことができる道筋を示して頂きたい。いのちを生かす道を示して頂きたい。それこそは私たち司祭の努めであると思います。
　ところでご列席の皆さん、間もなく司祭団に加えられる兄弟が、教会の中でどの様な奉仕の務めを行うために叙階されるのか、共に考えてみましょう。

　神の聖なる民全体は、キリストにおいて、王である祭司の民とされています。確かにその通りです。しかし、私達の大祭司イエス・キリストは、自ら何人かの弟子をお選びになりました。それは彼らが教会の中で、キリストの名によって、人々のために公に、祭司の務めを果たすためでした。キリストは御父から遣わされましたが、御自身も使徒達を世に使わし、彼らとその後継者である司教達を通して、師であり祭司であり牧者である御自分の務めを、引き続き果たしていくようにされたのです。そして司祭達は司教団の協力者として立てられ、祭司の務めによって司教と結ばれて、神の民に奉仕するよう召されています。
　司祭は、福音を述べ伝え、神の民を司牧し、特に主の奉献による神への礼拝を司式するために、永遠の大祭司キリストに似た者とされ、司教の祭司の務めに結ばれて、新しい契約の真の祭司として聖別されます。
　司祭に叙階される坂本耕太郎さん、あなたは師であるキリストにおいて、司祭として教え導くという、聖なる務めに携わる者となります。自分自身が喜びを持って受け入れた神の言葉を、全ての人に分け与えて下さい。そして、神の言葉を黙想し、読んだ事を信じ、信じた事を教え、教えた事を実行するように心がけて下さい。
　そしてあなたの教えが神の民の糧となり、生活の香りがキリストを信じる人々の喜びとなって、言葉と模範を通して、神の家である教会を築いて下さい。
　また、あなたはキリストにおいて、人々を聖なる者とする務めを果たす者となります。この奉仕の務めによって信者の霊的奉献は、キリストの奉献に結ばれて完成されます。キリストの奉献は、あなたの手を通して信者と共に祭壇の上で、秘跡として祭儀の内に捧げられるのです。ですから自分が行う事を弁え、それを生活の中で生かし、主の死と復活の神秘を祝う者として、自分自身、あらゆる悪に対して死んだ者となり、新しい命の内に歩むよう努力して下さい。

　あなたは洗礼によって人々を神の民に加え、赦しの秘跡によってキリストと教会の名の下に罪を赦し、聖なる油によって病者を助け、聖なる祭儀を司式します。また、神の民と全世界のために、感謝と願いを込めて、日々定められた賛美の祈りを捧げます。こうして奉仕の務めを果たす時、あなたは自分が神に仕える者として人々の中から召され、人々のために立てられたという事を思い起こして下さい。そして、自分の事ではなくキリストの事を考えて、永遠の祭司キリストの務めを、誠の愛の内に、喜びを持って果たして下さい。
　最後に、頭であるキリストの務めをそれぞれの立場で果たし、司教と心を合わせ、司教に従って、信者達が一つの家族となるよう努力して下さい。こうして信者達を、キリストによって聖霊の内に、父である神の下へ導く事が出来るのです。そして仕えられるためではなく、仕えるために来られ、失われていた者を探し求めて救いに導くために来られた、良い牧者キリストに倣って生活して下さい。
そして司祭の背後には、多くの信徒の方々の愛に満ちた祈りと、神の暖かな守りの手が常にあることを心に留めて、感謝のうちに司祭生活を全うしてください。