2012年降誕祭夜半のミサ
新潟教会

 暗闇に輝く一筋の光。その本当の価値を、私たちはどれほど良く、また深く知っているでしょうか。
 現代世界の、そして今の日本における私たちの日々の生活は、「明かり」であふれかえっています。暗やみの夜に帰宅して、玄関が真っ暗だと言っては明かりをつけ、テレビを見るために明かりをつけ、本を読むために明かりをつけ、今の私たちの生活にとって、明かりがないことなど考えられません。それはそれで、便利であるし、人影のない裏通りも街灯が明るく照らしてくれることで、安全でもありましょう。
 しかし私たちは、それがために、暗闇というものの深さを忘れてしまいました。そしてそのために、深い暗闇の中に輝く、一筋の小さな明かりの価値を、そしてそのありがたさを忘れてしまいました。
 


 私たちは、この便利な生活にあまりにも慣れてしまったがために、この快適さなしには生きていけないと思い込むようになりました。たとえば、大震災後に原子力発電所がすべて停止して、全国的に電力不足が言われたとき、停電になると私たちはあたかも生きていけないとでもいうような不安が広がりました。しかし実際には、数年前の新潟の停電の時もそうでしたが、確かに大変な目には遭いましたし、生命の危険にさらされた人がおられたことは否定しないのですが、しかしあたかも人類社会全体が危機に陥るかのように喧伝されたほどではないことにも、落ち着いて考えれば、当たり前だったと理解できるのではないでしょうか。
 どうして私たちはそれほどまでの不安を抱えたのか。それは私たちが電気のある状態にあまりにも慣れすぎて、それがないという状態を想起する想像力を失ってしまったからではないでしょうか。私たちは暗闇の深さを忘れてしまったのです。知らないものに対する不安は、知っているものに対する不安より遙かに大きく膨らんでいきます。私たちは実は、電気のない暗闇に不安を抱いているのではなく、知らないという事実に不安を抱いているのです。そして暗闇を知らなければ、それを照らし尽くす光の価値をも理解できるはずがないのです。私たちは、光の価値を、それが存在して当たり前だと思うことで、忘れてしまいました。
 


 私たちを形づくり生命を与えた神は、私たちが暗闇の中に彷徨うことを望まず、自らが生み出した人間を愛するがあまり、ご自分で直接に神の愛を伝えるため、人となられました。
 生命なんてあって当たり前、人間がこの世界をコントロールして当たり前と思い込んでいた私たち人間は、与えられた生命の価値を忘れていたのです。生命がどれほどありがたいものであるかを忘れていたのです。神は生命の価値を再確認するために自ら人間となられました。そして自らの言葉と行いによって、尊い賜物である生命を徹底的に尊重する生き方とはどういうものであるのかを、目に見える形で私たちに示されました。生命は当たり前のものではありません。私たちは、持てる力を尽くして、生命を尊重しなければなりません。
 


 降誕祭は、神が私たちと共におられることを、あらためて確認する夜です。
 降誕祭は、神が私たちの希望の光であることを、あらためて確認する夜です。
 降誕祭は、私たちが生命というすばらしい賜物を与えられたことを、あらためて確認し感謝する夜です。
 私たち人間は、どんなにあがいても、叡智の限りを尽くしても、人間の生命を生み出すことはできません。それは徹頭徹尾、全能の神だけがなせる業です。神にしか生命を生み出すことはできません。
 しかし私たち人間には、その生命を徹底的に尊重し、守りぬく力が与えられています。そして私たちには、生命から将来に向かっての希望を生み出すことが可能です。
 


 この夜、神は両親から護られなければ保たれることのない、か弱い生命である幼子として私たちに間に現れました。生命の生みの親である神ご自身が、人間によって護られなければならない灯火のような生命としてこの世にこられることで、私たちが生命を守ることの尊さを、その尊厳を示されました。
 昨年3月の大震災で多くの方が生命を奪われました。その不条理さの前で、私たちはなすすべもなく、そのわけを理解することもできずに佇んでいます。唯一理解できることは、私たち人間には、生命をコントロールできるような力は与えられていないと言うことだけです。その不条理さに凌駕されそうになりながら、同時に私たちは、残された生命を徹底的に大切にすることの必要性にも目覚めさせられます。
 


 岩手県の大槌というところにカトリック教会のボランティアベースがあります。津波からかろうじて残ったビジネスホテルを再利用して、設立されました。すべてが流された海辺の荒れ野に残されたビジネスホテルに、ある晩明かりが点りました。そのとき、その場にいた長崎教区の神父は、暗闇に輝く一筋の光の力強さに圧倒されたと言います。失って初めて私たちは、光の価値に気がつかさせられたのです。
 いま、東北の被災地で復興のために戦う多くの人たちを支えていこうと決意する私たちは、その関わりを通じて、生命を生き抜くことの重大さをあらためて知らされています。与えられた生命を生き抜くことの価値を認識させられています。私たちは、徹底的に生きて生きて生き抜かなくてはなりません。暗闇に輝く希望の光であるこの賜物を、さらに輝かせて行かなくてはなりません。
 降誕祭にあたり、神が私たちに生命という賜物を与えて下さった神秘に思いをはせ、感謝の心を新たにいたしましょう。
 降誕祭にあたり、この生命を徹底的に尊重し守り抜く決意を新たにしましょう。
 降誕祭にあたり、暗闇に輝く一筋の希望の光として生き抜く決意を新たにいたしましょう。