新潟教区平和旬間
平和祈願ミサ
新潟教会
2014年7月27日

　私たちが平和のために祈らなければならない出来事は、世界のありとあらゆるところで続発しています。多くの場合、私たちは情報をマスメディアに依存しているので、その全容を知ることはほとんど不可能だと思います。私たちの目や耳に届くのは、その中でもマスメディアで取り上げられる出来事、つまり国際社会の政治や経済に大きな影響を与える出来事に限られています。まず第一に私たちは、その時々に世界中が大騒ぎしている事件の裏に、いくつもの気づかれることのない悲劇が進行していることに、心を留めなければなりません。
　とはいえ、この数週間に限っても、ガザ地区を中心としたイスラエルとパレスチナの武力対立や、ウクライナの内戦に伴って発生したマレーシア航空機撃墜事件など、多くの生命を、とりわけ多くの子どもたちや紛争に無関係な人を巻き込んだ悲劇的な出来事ほど、私たちの心に衝撃を与えたものはありません。

　ウクライナの撃墜事件に関して言えば、紛争と全く無関係な２００人以上の人々が一瞬にしてその生命を奪われてしまった出来事は、単なる悲劇的な航空機事故ではありません。ウクライナの内戦に全く関係のない人々が巻き込まれて、２００人以上も殺害されたということに他なりません。この犠牲者たちは、航空機事故の被害者ではなく、戦争によって殺された方々です。仮に事件が偶発的に、どちらかの勢力の錯誤によって発生したのだとしても、結局はその地において武力紛争が発生したことが、この悲劇の原因に他なりません。
　ガザにおいては、１９４８年のイスラエル建国以来、今にまで至る複雑な地域の状況が、対立する人々の互いの憎しみの感情を積み重ねさせ、そこに政治の駆け引きが加わることで、状況を悪化させ続けています。政治的な解決はどこにあるべきなのかは、あまりに複雑な状況が生み出されてきてしまっているために、当事者にも、仲介をしようとする勢力にも、実は行き着くべき結論が全く見えなくなってしまっているのではなかろうかと思います。そのため解決のためには、いきおい武力で決着をつけるという一番単純な選択肢を、これまで幾度となく選んできた結果です。
　私たちは、政治的な対立を解決する手段に武力を行使することは、結局は良い結果を生み出さないことを、歴史の中で何度も見てきました。それは、政治的な対立が、国家という抽象的な存在の対立を越えて、そこに生きる生身の人間を、しかも多くの場合、当の国家に保護されるべきそれぞれの国民を、結局は巻き込んで生命を奪い、それがために残されたものの心に大きな傷を残していくからです。悲しみと憎しみはいつまでも絶えることがありません。一体ガザで、そしてウクライナで、どれほどの非戦闘員の生命が奪われてしまったことか。どれほどの悲しみと憎しみが生み出され、それが増幅していることでしょう。

　私たちの国も、その昔、国家間の対立を解決する手段として戦争を選びました。敗戦の結果は何だったでしょうか。一見、その後の経済的繁栄を見ると、それほど悪いことをもたらしたわけでもないと言ってしまいそうになります。しかし、まもなく戦争が終わって７０年が経過しようとしているのに、私たちはその悲劇を今でも忘れることはできないし、その戦争で生命を奪われた多くの方々、それは軍にいた方々、一般の市民、もちろん敵味方に分かれて闘ったそれぞれの国と、戦場になった地で巻き込まれた多くの方々、多くの失われた生命への責任から逃れることはできません。
　その責任を思う時、私たちが今取り得るのは、同じ過ちを繰り返さないという決意を新たにする道でしかないと思います。
　はたして私たちは、いま、どのような道を歩もうとしているのか。あらためて、政治の対立を解決する手段は武力の行使ではなく、対話でしかないことを、市民の生命を奪うことではなく護ることを、世界の政治の指導者たちが心に留めてくれるように、祈りたいと思います。

　とはいえ、いくら祈っても世界に平和が訪れないという無力さを感じることがあります。教皇フランシスコは、聖地での武力対立が激化する中で、先日のアンジェルスの際にこう言われました。
　「6月8日にバルトロマイ一世、イスラエルのペレス大統領、パレスチナ自治政府のアッバス議長と共に平和のたまものを祈り求めたことは、今でも鮮明に記憶しています。わたしはそこで、憎しみと暴力の連鎖を断つよう求める声を聞きました。あの集いは無駄であったと考える人もいるかもしれませんが、それは違います。なぜなら、祈りは、悪に屈することを受け入れたり、対話と和解が暴力と憎しみにとって代わることに甘んじたりすることがないように、わたしたちを助けてくれるものだからです。紛争当事者、そして地域や国際レベルで政治的責任を担うすべての人にお願いします。祈ることをためらわないでください。そして、あらゆる争いを終わらせ、待ち望んでいた平和がすべての人の幸福のために実現するよう尽力してください」。
　教皇と共に、私たちも、祈りの力に信頼して、平和のために祈り続けたいと思います。そして世界の政治のリーダーたちに、憎しみと暴力の連鎖を断ち切る道を選択するように、呼びかけ続けたいと思います。