主の降誕(夜半のミサ)
2009年12月24日
新潟教会

「死の陰の地に住む者の上に、光が輝いた」

 今宵、この教会で、ともにクリスマスを祝うためにお集まり下さった皆さん。ようこそおいで下さいました。そして、クリスマス、おめでとうございます。
 「いのち」は、神から与えられた、私たちに最大の喜びをもたらす「たまもの」です。
 先ほど朗読された福音書には、その日、夜通し羊の群れの番をする羊飼いたちに突如現れた天使が、「大きな喜びを告げる」と宣言したことが記されてありました。そして天使は、その「大きな喜び」の「しるし」は、生まれたばかりの小さな「いのち」であると続けて宣言します。すなわち、人間に与えられた新しいいのち、そしてその小さな小さないのちの中にこそ、神が与える大きな喜びが込められているのだというのです。
 「いのち」は、神から与えられた、私たちに最大の喜びをもたらす「たまもの」です。
 残念なことに私たちが生きている国では、喜びをもたらすたまものであるはずの「いのち」が、危機にさらされています。皆様もご存じのように、日本では1998年以降、毎年3万人を超える方が自ら命を絶たなければならない状況に追い込まれております。「日本社会はいま、『見えざる戦争』の中にある」とまで指摘される方もおります。確かに実際に戦争をしている国よりも、一年間により多くの国民を失っていることは確実であります。そこにはさまざまな背景があり、簡単にその理由を見出すことはできいないでしょう。そこまで追い詰められていったお一人おひとりには、他人が推し量ることのできない大きな苦しみや、行き詰まりがあったことだと思います。私たちが生きているこの国の複雑に絡み合った社会の現実が、「いのち」を危機にさらしております。
 日本の司教団が以前発表した「いのちへのまなざし」には、次のような呼びかけが記されています。
 「苦しみの闇の中には二つの扉があるといわれます。一つは簡単に開けられる、絶望の世界に導く扉です。もう一つの扉は開けるのは難しいけれども、希望の世界に導く扉、どんなに重くても、わたしたちは、希望につながる扉を開けるように努めなければなりません。」
 また司教団は、昨年12月に発表した「すべての人の人権を大切に」と題したメッセージで、私たち一人ひとりに次のように呼びかけております。
 「今日の危機的局面を打開するためには、そのすべての要因を一つ一つ根気強く取り除いていく必要があります。そのためにわたしたちは、貧しく弱い立場に追いやられ、大切な人間関係を断たれてしまっている人々、人間らしい生活が損なわれ、あるいは妨げられている人々の側に立って、この世界を見ていかなければなりません」
 第一の朗読「イザヤの預言」には、「闇の中を歩む民は、大いなる光を見、死の陰の地に住む者の上に、光が輝いた」と記されておりました。神から与えられたたまものである「いのち」を危機的な状況に追い込んでいるこの現実は、まさしく人間を包み込む暗闇であります。この暗闇に輝く希望の光は、この夜、主の降誕の出来事として私たちの前に示されています。「死の陰の地に住む者の上」に対して、「希望につながる扉」を指し示す輝く光は、私たちが今宵誕生を祝っているイエスご自身であります。
 「いのち」は、神から与えられた、私たちに最大の喜びをもたらす「たまもの」です。
 今年のクリスマスに教会に集まって下さった皆さんお一人お一人に、私が神からの呼びかけのメッセージとして伝えたいこと、何度も繰り返してお伝えしたいことはの、このことに尽きます。
 「いのち」は、神から与えられた、私たちに最大の喜びをもたらす「たまもの」です。
 神の子が小さな新しいいのちとしてこの世に誕生したように、世界のあらゆるところで、毎日新しいいのちが誕生しております。神からのたまものであるこの尊いいのちが、それぞれに与えられた神からの祝福をいただいて、その尊厳を保ちながら生きていくことのできる世界を、私たちは生み出すことができていません。
 「地には平和、御心に適う人にあれ」と天使は賛美しながらいったと福音にありました。平和に充ちた世界、すなわち神の望まれる秩序が実現している世界を生み出すことこそが、「御心に適う」ための私たちに与えられた使命ではないでしょうか。
 困難な社会の状況の中で、互いに支え合い、理解を深めあい、絆を強めあいながら、神からのたまものであるいのちを豊かに生きる世界を生み出して参りましょう。助けを求めている声に、耳を傾ける努力を怠らないようにいたしましょう。また、神からのたまものであるいのちを豊かに生きることを阻むさまざまな壁を、根気よく取り除く努力をいたしましょう。一人ひとりを大切に育む、豊かな社会を生み出していきましょう。
 「いのち」は、神から与えられた、私たちに最大の喜びをもたらす「たまもの」です。
 私たちにはそのたまものを豊かに生きていくための道具が与えられています。暗闇に輝く神の光、主イエスの福音を私たち一人ひとりが高く掲げ、希望の扉を指し示して参りましょう。