主の降誕（夜半のミサ）
新潟教会
2011年12月24日

「闇の中を歩む民は、大いなる光を見た」

お集まりの皆様、主の降誕、おめでとうございます。
　この一年間、私たちは、これまでわかってはいるけれどそれほど切実にまた真剣に考えてこなかったことを、あらためて深く考え直す機会を与えられてきました。確かにいつかはありそうなことだけれども、自分自身の今を生きる人生にとっては、それほど切迫した問題ではないと、どこか記憶の片隅に追いやりしまい込んでいた事柄を、毎日の生活の中でやはり真剣に考えなればならないと思い直させる、そういう機会を与えられてきました。いうまでもなくそのきっかけは、３月１１日に発生した未曾有の大災害、想像を絶する強大な地震と津波が、多くの人の人生を一日にして大きく変えてしまった、その出来事でありました。
　震源が海底にある大地震が発生すれば、当然大きな津波が発生することは、この島国に住む多くの人の常識としているところです。でも、まさか、あれほどの破壊力を持った巨大な津波が本当に発生するとは、私を含め多くの人が想像すらしていなかった。津波が発生したとしても、あれほど多くの方々の生命が失われるとは想像すらしていなかった。加えて、心配する声はあったものの、まさか本当に原子力発電所が制御不能になり、あれほど多くの人が避難せざるを得なくなるとは想像すらしていなかった。まさか本当に起こりはしないだろうと、高をくくっていたことが実際起こってしまい、驚いた私たちは、自分は大丈夫なのだろうかと考え始めたのです。そんなことが起こりうる可能性があることは知っていたけれど、現実になろうとは想像もしていなかった。自分自身の現実とは無関係な想像上の出来事のはずが、現実となってしまった。まさしく大災害は、突然にリアリティを持って私たちの人生に場所をしめるようになりました。
　大きな被害を目の当たりにすることで、私たちは建築の限界や科学の力の限界、つまり人間の知恵の限界をはっきりと思い知らされました。加えてそれに続いた節電の要請によって、私たちはこの数十年の間に積み重ね築き上げてきた生活のあり方を見直す必要にも迫られました。この世の富には限界があることを薄々知ってはいたものの、まさか本当に限界があるのだという現実に生きている間に直面するとは思わなかった。この一年は本当にまさかの連続でありました。

　さて、人間にはその力にはっきりとした限界があるのだということを認識させられた私たちは、これからまもなく迎える新しい年を、どこへ向かって進んでいくのでしょうか。
　残念なことに、私たちの周囲には、はっきりとわからないことが多すぎる。そもそも地震の発生にしても、いつどこでどのように発生するかを予測することは容易ではない。はっきりわからないことが多々あるのだという事実を、あらためて認識させられました。つまり、皆さん、大自然の巨大な力を前にするとき、人間の知恵や知識は立ち向かうにはあまりにも小さな存在であり、多くのことは不確実なままに、私たちはその不確実の真っ直中に放り込まれて、生きていかねばならないのです。今そうなったのではなく、今までもそうであったことにあらためて気がつかさせられたのです。まさしく、暗闇の中に放り出され、途方に暮れている存在であるにもかかわらず、私たちは人間の能力を過信し、まるですべてがわかったかのような勘違いをして人生を歩んで来たのではないでしょうか。
　暗闇に放り出された存在は、疑心暗鬼に陥りながらも、何とかして光を見いだそうとします。しかし頼るべき道しるべが見いだせず、その心に潜む疑心暗鬼が深まるとき、とんでもない誤った判断をしてしまうことすらあります。光と思い込んだものに飛びついてしまうのです。大震災の後から今に至るまで、風評被害という言葉を何度も耳にしました。人間の弱い本性は、たとえば噂話のような不確実な光であっても、暗闇が深ければ深いほど、本物の光だと思い込んでしまうのです。とんでもないような噂話に踊らされて、どれほど多くの人が悲しい思いをさせられていることでしょう。

　先ほど朗読されたイエスの誕生物語において、天使がイエスの誕生を告げる様子が描写されています。その様子は、まさしく確実にその誕生の出来事を告げ知らせる自信に満ちあふれています。ただ言葉で伝えるだけではなく、「これがあなた方へのしるしである」と目に見える確実な証拠の存在をすら告げ知らせます。噂のような不確実な光ではなく、確かな現実としてのすべてを照らす光を明らかにするのです。真実の光の輝きです。
　多くの方々が今日もまだ、震災の被害から立ち直るための努力を続けておられます。平穏無事な普通の生活を完全に取り戻すには、まだまだ長い時間が必要です。そして多くの人たちからの連帯が必要です。
　被災地に生きるその方々を身近に感じ、心の絆で連帯するとき、私たちにはこれまで９ヶ月間、私たち自身が繰り返し語ってきた言葉をむなしいものにしてしまわない努力を継続する義務があるのではないでしょうか。被災された方々と連帯するというのであれば、震災直後から語ってきた言葉をむなしく消えゆくものとしてはならないのです。
　連帯の絆、隣人愛、思いやり、助け合い、支援、救援、援助などなど、被災された方々に連帯を表明した多くの人によって語られてきた言葉は数多くあるはずです。それを一時の思いつきで終わらせてはなりません。暗闇の中をさまよう私たち人類が、進むべき道を明確にする本物の光を手にするためにも、人間が生きる意味を真剣に考えたこの９ヶ月の思いをむなしいものにしてはなりません。
　主イエスが生まれたその夜、暗闇の中に一筋の光が輝きました。その光は真理の光、私たちがしっかりと手に携え、先頭に立ってすべての人の道を照らすための光です。誕生された主イエスと共に、光を輝かせながら人生の旅路を歩んで参りましょう。　

　