坂本耕太郎神学生・助祭叙階式説教
２００８年３月３０日
新潟教会

　自分の人生においては、自らが道を切り開いていくことが、当然の私たちの努めなのかもしれません。ただ黙って待ているだけでは、何も成し遂げることはできない。様々な局面において、自らが進むべき道を選択し決断するからこそ、どこかに到達することができる。人生が旅であるならば、その終着点に向かって自ら前進する決断をしない限り、先へ進むことはありません。
　本日私たちは、坂本耕太郎神学生が、司祭職への道程を進むにあたって、その前提となる助祭職に与るために、自ら一歩前に進み出る彼の決断を、目の当たりにしています。確かに司祭職には、自ら選択するという側面がある事は間違いありません。誰も成り行きで司祭の道を選択することはないでしょうし、また実際に司祭養成の様々な局面で、自らの自由意志で先に進むのかどうかを、幾度も幾度も確認をされます。今回の助祭叙階にあたっても、事前に司教の面前で信仰宣言をするだけではなく、自らの自由意志の表明が行われました。司祭の道は容易ではありません。そもそも司祭になろうと志すこと自体が、現代社会にあっては尋常なことではありません。加えて七年ほどの神学院の生活では、同じ道を歩んでいるとはいえ様々な年代の、また様々な人生経験を持った人たちと共同生活を体験し、朝の祈りに始まり寝る前の祈りに終わる規則正しい毎日の生活を営み、哲学に始まって神学の勉強に日々取り組み、週末ともなれば友人たちと遊びに行くこともなく各地の教会に手伝いに出かける。そこには司祭になるという本人の強い意志があるからこそ、最後まで到達しようともがき悩みながらも努力ができるのです。確かにそういう意味では、司祭職も自分の力で獲得する人生の目標の一つと言えるのかもしれません。
　しかし、実際には自分のために司祭を目指すべきものではありません。主であり最高の師でもあるイエス・キリストの模範に徹頭徹尾倣って生きようとするのが司祭の人生ですから、当然イエスのように人々に仕え奉仕することを最大の喜び、そして最大の目的としているのです。ですから自分のためではなく、人々に奉仕するために司祭を目指すのです。

　本日の叙階式で朗読された聖書の箇所は、定められたものでもなければ誰かが選んだ箇所でもありません。先ほど朗読された福音を含めて、坂本神学生が自ら選んだ箇所です。そこには坂本神学生自身の思いが込められた選択であろうと思います。なかでも福音は、罪に汚れたと糾弾される女性が、涙でイエスの足をぬぐい香油を塗るという感動的な話です。この話から、イエスの慈しみ深いまなざしと、罪を許されたものが抱く感謝の思いを、感じ取ることができます。坂本神学生は、自らが徹頭徹尾従っていこうとする主の模範を、この慈しみ深いまなざしに求めてこの箇所を選んだのかもしれません。イエスのまなざしを感じ取り、また罪を許されたものが抱く感謝の心を忘れずに、主であるイエスの模範に倣う司祭を目指して頂きたいと思います。　

　同時に司祭職への道は、支えて下さる多くの方々によって成り立っています。神学生として養成を受けている間にも、数限りない人たちの祈りが、その生活を支え、困難を乗り越える力を与えてくれるのです。そして司祭の人生は孤独のうちにある人生ではありません。司祭が身を粉にして奉仕するとき、その司祭によって支えられ慰められる人たちが、逆に祈りの力で司祭を育て支えてくれるのです。ですから司祭が懸命に使える者となり、一生懸命、奉仕に奉仕を重ねるならば、多くの方々が、更なる祈りを持って司祭を支えてくださると確信しています。司祭職は、信徒の祈りによって育てられるのです。
　そしてそれ以上に、司祭職への招きは人間の知恵をはるかに超えた神からの神秘的な招きによるものです。これから助祭に叙階され、司祭への道の最終段階へと歩みを進める坂本耕太郎さんにも、日々祈りを持って支えてくださる多くの方々を思い起こし、その祈りの力に身をゆだねて頂きたいと思います。また最初に司祭職へと呼び出してくださった神の招きにも信頼してください。司祭の背後には常に祈る信徒と、共に歩む主イエスがおられます。その支えを心で感じることが出来るとき、感謝する司祭が誕生します。
（これより以下は、助祭叙階式の典礼文から）　

ご列席の皆さん。坂本耕太郎さんは、まもなく助祭団に加えられます。そこで、この兄弟がどのような奉仕の務めを行うために叙階されるのか、ともに考えてみましょう。
　この方は聖霊のたまものに強められ、神のことばと祭壇に奉仕し、愛のわざに励み、すべての人に仕えて、司教とその司祭団を助けます。祭壇に奉仕する者となって福音を告げ知らせ、ささげものを準備し、主の御からだと御血を信者に授けるのです。
　さらに、助祭の奉仕職には、司教から命じられたことに従って、信者にも信者でない人にもよい勧めを与え、聖なる教えを伝え、祈りを司式し、洗礼を授け、結婚に立ち会って祝福を与え、死に臨む人にキリストの聖なる糧を授け、葬儀を司式することがあります。
　助祭は、使徒たちから伝えられた按手によって聖別され、祭壇にいっそう固く結ばれて、司教あるいは主任司祭の名によって、愛のわざに奉仕する者になります。このすべての務めを神の助けによって果たし、仕えられるためではなく仕えるために来られたキリストのまことの弟子であることを示してほしいと思います。
　助祭に叙階される坂本耕太郎さん。あなたがどのように行動したらよいかを主は身をもって示してくださいました。
　助祭は弟子たちの中で、仕える者となられたイエス・キリストの役務者ですから、心から神のみ旨を行い、主に仕えるように、人々にも愛と喜びをもって仕えてください。だれも二人の主人に仕えることはできません。ですから、あらゆる汚れと貪欲は、偶像に仕えることであると考えてください。
　あなたは自らすすんで助祭に叙階されることを希望しているのですから、かつて使徒たちによって愛のわざの奉仕者として選ばれた人々のように、人望があつく、聖霊と知恵に満たされた者でなければなりません。あなたは独身のまま奉仕職を果たそうとしています。独身生活は、牧者としての愛のしるしと励ましであり、また、世にあって豊かな実りをもたらす特別な源なのです。主キリストへのひたむきな愛に駆り立てられ、すべてをささげてこの生き方を貫く人々は、ほかのことにとらわれず、よりたやすくキリストに結ばれるでしょう。こうして、より自由に神と人々に仕えることに専念し、人々を神によって新たに生まれる者とするわざに、よりよく奉仕することができるのです。信仰に根ざし、これを土台にして、キリストの役務者、神の秘義を人々にもたらす者にふさわしく、神と人々の前で汚れのない者、非のうちどころのない者として自らを示してください。また、福音の告げる希望から目をそらさないでください。あなたは、福音を聞くだけではなく、福音に奉仕しなければならないのです。
　清い心で、信仰の秘義を保ち、口でのべ伝える神のことばを行いで示してください。こうして聖霊によって生かされるキリストの民は、神のみ旨にかなう清いささげものとなり、あなたも終わりの日に主を迎えて、「忠実な良いしもべだ。よくやった。主人と一緒に喜んでくれ」という主のことばを聞くことができるでしょう。