キャンプルポ６

ルワンダ難民キャンプ現地ルポ（その６）

ルワンダ難民キャンプ現地ルポ（その６）
１９９５年５月・旧ザイールのブカブにて

「あれがRPFの、本性なんだ。」
　４月２２日にルワンダ国内の難民キャンプ・キベホで起きた、RPA（ルワンダ愛国軍）によるフツ族難民の虐殺事件を知っての、ある難民の人の反応です。犠牲者の数について、ルワンダ現政府の言う二百人か、国連が言う二千人か、どちらを信じるかは各人の問題です。しかし人間の命を奪う行為の軽重が、犠牲者の数によって決まるかのような論調には疑問を憶えます。
　さてキャンプで難民の人達の話を聞いていると、必ずRPFの話になります。いかに彼らが残忍であるか、だからこそ今ルワンタには帰ることが出来ない、と話は進むのですが、それらの話の多くは「うわさ」の領域を出ることができません。もちろん状況が状況ですから、目撃者を見いだすのは容易ではありませんが、それらの話が単に恐怖をあおるための旧政権のプロバガンタの産物なのか．本当にRPFが残忍なのか、見極めるのはかなり困難です。しかしこれまでいろいろと聞かされたことですし、あくまでも「うわさである」という前提で、難民の人達から聞いた話から、紹介しましょう。　
ルワンダ北部のビュンバは、９０年の内戦開始から常にRPFの攻撃にさらされていた町です。このビュンバから避難してきて、現在ニャガボゴキャンブにいる男性の話。
「RPFが村で赤ん坊を捕まえると、臼に放り込んで突き殺した」
「ポケットが必要だろうと言って、捕まえた村人の両わき腹をナイフで切り、手を突っ込んで、ちょうどいいポケットだと言った」
「RPFは、女子供が集まる水汲み場をねらって、地雷をしかけた」
「妊娠している女性を捕まえると、ナイフで腹を裂いて、胎児を取り出した」
　ルワンダ南部のブタレから避難してきた男性の話。
　「ルワンダ国内の刑務所では、拷問が日常茶飯事になっている。今多いのは、床に寝かせて、男性なら性器、女性なら胸に重しの石を乗せるやり方だ」
　「やはり刑務所で、おまえは物が良く見えない奴だから、良く見えるようにしてやろうと言って、囚人の両目をえぐり出した」
「RPFは押し入った家の住人を皆殺しにすると、床を掘って遺体を埋め、この家族は犯罪人だから、罰を恐れてザイールへ逃げてしまったと言いふらしている」
「刑務所では、食事に砕いたガラスを混ぜて、囚人を殺している。」
この男性の話とは少々異なるものの、確かにRPFによる拷問はあるようです。アムネスティ・インターナショナルの報告書には、RPFの拷問の特徴的方法として、両腕を後ろに回させて、ひじより上の部分を固く縛ることが、広く行われていたとあります。
　あるキャンプのシェフ(難民代表)補佐の話。
「この難民キャンプを見下ろす丘には、５９年にこちらへ逃げ込んで来たツチがかなりいるが、RPFはひそかに彼らに武器を渡して、機会があれば我々を殺そうとねらっている。またRPFは教育を受けたフツなど、暗殺すべきフツのー覧表を作成した。」
　国境近くで避難生活を送るシスターの話。
「RPFが何かと理由をつけてはフツを逮捕し、近頃は頭に火がついた冠をかぶせて、囚人を焼き殺している。」
「虐殺に手も貸していないのに、殺人を止めに入らなかったと言う容疑で逮捕され、処刑されたフツがいる」
　
あるキャンプで避難生活を送るシスターの話。
「キガリ近くの修道院に、昨年５月頃RPFに追われたフツが多数逃げ込んできた。彼らを修道院で保護していたところ、RPFが修道院に捜索に入り、フツの人と共に１３人のシスターも逮捕され、ビュンバ近くへ連行された。到着するといくつも穴が掘ってあり、全員その中に並ばさせられて、銃殺された。」
　ツチを殺すフツを止めなかったとか、逃げるフツを保護した。こういう理由で逮捕されたり、また今現在RPFのブラックリストに載っている人が、外国人を含めてかなりいると言う話は、多くの人達から聞きました。また、虐殺のために穴が用意してあったという話も、旧政府軍兵士を含めて、複数の人から聞きました。
　ビュンバ近郊にいた複数の人に聞いた詣では、RPFの特徴的な村落襲撃方法として、月夜に手りゅう弾の音を響かせながら攻撃を開始し、必ず村の診療所を攻撃する。しかも病人がいれば、皆殺しにする。何となく、４月１１日のビラバキャンプ攻撃にそっくりです。実は以前ビュンバで働いていた外国人のある人は、ビラバ襲撃の晩、すぐにRPFの仕業だと解ったと言います。それは単に方法が同じと言うだけでなく、RPFが使っている銃の発射音に特長があるためだと言うのです。

　次に、今回の内戦勃発の背景にいったい何が隠されているのか。数多くの難民が、確信を持って聞かせてくれた話です。
　彼らの多くによれば、アメリカ合衆国政府がRPFを支援していると言います。その目的は、ある人によれば「英語圏」を広めて、影響力を行使しようとしているためです。またほかの人によれば、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジを支配下に納めて、この諸国を通じて次はザイールの不安定化を図り、ついには資源が豊富なザイールを支配下に納めようとしている、とも言います。彼らによれば、９３年にタンザニアのアルシャで、国連の仲介による休戦が成立し、RPFを含めた新政権を成立させることが決まった段階で、旧政権を排除する工作が始まったと言います。国連による旧政権への武器禁輸が行われている間に、RPFが力をつけていったとも聞きました。また、他の難民は、リビアなどのイスラム諸国が、RPFに資金をつぎ込んでいるとのうわさを話してくれました。
もちろん始めにも記したように、これらの話にはすべて、裏付けとなる証拠はありません。あくまでも「うわさ」に過ぎません。でも確かに私がこの耳で聞いた「うわさ」です。事実、旧政権の中でも特に軍関係の過激派が、難民帰還を阻止するために、プロバガンタとしてのうわさを流しているという話も耳にします。ありとあらゆる「うわさ」が飛び交っているのは間違いありません。しかし中にはうなずかざるを得ない「うわさ」もあるのです。
　難民となっているフツ族の人達のなかに、昨年４月のツチ族虐殺事件に関わった人がいることは事実ですし、５０万人以上が命を奪われたというあの事件を否定する人はこのキャンプにはいません。しかしいくらその事件が衝撃的であったからと言って、フツ族の人達がやはり内戦の被害にあってきた事を、忘れ去るわけには行きません。フツ族の多くのー般民衆は、この国際的な政治闘争に巻き込まれて住む土地を追われ、国際的には「殺人者民族」の汚名を着せられている、ある意味での「被害者」とも考えられます。国際世論の力が、ツチ族を虐殺した昨年４月以降の事件を裁く国際法廷を設立させました。それはそれで正しいことに違いありません。しかしこの国際法廷は、内戦の敗者に対しても勝者に対しても、共に公平な法廷であることが出来るのでしょうか。

	ルワンダ難民キャンプ現地ルポ（その６）
	ルワンダ難民キャンプ現地ルポ（その６）１９９５年５月・旧ザイールのブカブにて「あれがRPFの、本性なんだ。」　４月２２日にルワンダ国内の難民キャンプ・キベホで起きた、RPA（ルワンダ愛国軍）によるフツ族難民の虐殺事件を知っての、ある難民の人の反応です。犠牲者の数について、ルワンダ現政府の言う二百人か、国連が言う二千人か、どちらを信じるかは各人の問題です。しかし人間の命を奪う行為の軽重が、犠牲者の数によって決まるかのような論調には疑問を憶えます。　さてキャンプで難民の人達の話を聞いていると、必ずRPFの話になります。いかに彼らが残忍であるか、だからこそ今ルワンタには帰ることが出来ない、と話は進むのですが、それらの話の多くは「うわさ」の領域を出ることができません。もちろん状況が状況ですから、目撃者を見いだすのは容易ではありませんが、それらの話が単に恐怖をあおるための旧政権のプロバガンタの産物なのか．本当にRPFが残忍なのか、見極めるのはかなり困難です。しかしこれまでいろいろと聞かされたことですし、あくまでも「うわさである」という前提で、難民の人達から聞いた話から、紹介しましょう。　ルワンダ北部のビュンバは、９０年の内戦開始から常にRPFの攻撃にさらされていた町です。このビュンバから避難してきて、現在ニャガボゴキャンブにいる男性の話。「RPFが村で赤ん坊を捕まえると、臼に放り込んで突き殺した」「ポケットが必要だろうと言って、捕まえた村人の両わき腹をナイフで切り、手を突っ込んで、ちょうどいいポケットだと言った」「RPFは、女子供が集まる水汲み場をねらって、地雷をしかけた」「妊娠している女性を捕まえると、ナイフで腹を裂いて、胎児を取り出した」　ルワンダ南部のブタレから避難してきた男性の話。　「ルワンダ国内の刑務所では、拷問が日常茶飯事になっている。今多いのは、床に寝かせて、男性なら性器、女性なら胸に重しの石を乗せるやり方だ」　「やはり刑務所で、おまえは物が良く見えない奴だから、良く見えるようにしてやろうと言って、囚人の両目をえぐり出した」「RPFは押し入った家の住人を皆殺しにすると、床を掘って遺体を埋め、この家族は犯罪人だから、罰を恐れてザイールへ逃げてしまったと言いふらしている」「刑務所では、食事に砕いたガラスを混ぜて、囚人を殺している。」この男性の話とは少々異なるものの、確かにRPFによる拷問はあるようです。アムネスティ・インターナショナルの報告書には、RPFの拷問の特徴的方法として、両腕を後ろに回させて、ひじより上の部分を固く縛ることが、広く行われていたとあります。　あるキャンプのシェフ(難民代表)補佐の話。「この難民キャンプを見下ろす丘には、５９年にこちらへ逃げ込んで来たツチがかなりいるが、RPFはひそかに彼らに武器を渡して、機会があれば我々を殺そうとねらっている。またRPFは教育を受けたフツなど、暗殺すべきフツのー覧表を作成した。」　国境近くで避難生活を送るシスターの話。「RPFが何かと理由をつけてはフツを逮捕し、近頃は頭に火がついた冠をかぶせて、囚人を焼き殺している。」「虐殺に手も貸していないのに、殺人を止めに入らなかったと言う容疑で逮捕され、処刑されたフツがいる」　あるキャンプで避難生活を送るシスターの話。「キガリ近くの修道院に、昨年５月頃RPFに追われたフツが多数逃げ込んできた。彼らを修道院で保護していたところ、RPFが修道院に捜索に入り、フツの人と共に１３人のシスターも逮捕され、ビュンバ近くへ連行された。到着するといくつも穴が掘ってあり、全員その中に並ばさせられて、銃殺された。」　ツチを殺すフツを止めなかったとか、逃げるフツを保護した。こういう理由で逮捕されたり、また今現在RPFのブラックリストに載っている人が、外国人を含めてかなりいると言う話は、多くの人達から聞きました。また、虐殺のために穴が用意してあったという話も、旧政府軍兵士を含めて、複数の人から聞きました。　ビュンバ近郊にいた複数の人に聞いた詣では、RPFの特徴的な村落襲撃方法として、月夜に手りゅう弾の音を響かせながら攻撃を開始し、必ず村の診療所を攻撃する。しかも病人がいれば、皆殺しにする。何となく、４月１１日のビラバキャンプ攻撃にそっくりです。実は以前ビュンバで働いていた外国人のある人は、ビラバ襲撃の晩、すぐにRPFの仕業だと解ったと言います。それは単に方法が同じと言うだけでなく、RPFが使っている銃の発射音に特長があるためだと言うのです。　次に、今回の内戦勃発の背景にいったい何が隠されているのか。数多くの難民が、確信を持って聞かせてくれた話です。　彼らの多くによれば、アメリカ合衆国政府がRPFを支援していると言います。その目的は、ある人によれば「英語圏」を広めて、影響力を行使しようとしているためです。またほかの人によれば、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジを支配下に納めて、この諸国を通じて次はザイールの不安定化を図り、ついには資源が豊富なザイールを支配下に納めようとしている、とも言います。彼らによれば、９３年にタンザニアのアルシャで、国連の仲介による休戦が成立し、RPFを含めた新政権を成立させることが決まった段階で、旧政権を排除する工作が始まったと言います。国連による旧政権への武器禁輸が行われている間に、RPFが力をつけていったとも聞きました。また、他の難民は、リビアなどのイスラム諸国が、RPFに資金をつぎ込んでいるとのうわさを話してくれました。もちろん始めにも記したように、これらの話にはすべて、裏付けとなる証拠はありません。あくまでも「うわさ」に過ぎません。でも確かに私がこの耳で聞いた「うわさ」です。事実、旧政権の中でも特に軍関係の過激派が、難民帰還を阻止するために、プロバガンタとしてのうわさを流しているという話も耳にします。ありとあらゆる「うわさ」が飛び交っているのは間違いありません。しかし中にはうなずかざるを得ない「うわさ」もあるのです。　難民となっているフツ族の人達のなかに、昨年４月のツチ族虐殺事件に関わった人がいることは事実ですし、５０万人以上が命を奪われたというあの事件を否定する人はこのキャンプにはいません。しかしいくらその事件が衝撃的であったからと言って、フツ族の人達がやはり内戦の被害にあってきた事を、忘れ去るわけには行きません。フツ族の多くのー般民衆は、この国際的な政治闘争に巻き込まれて住む土地を追われ、国際的には「殺人者民族」の汚名を着せられている、ある意味での「被害者」とも考えられます。国際世論の力が、ツチ族を虐殺した昨年４月以降の事件を裁く国際法廷を設立させました。それはそれで正しいことに違いありません。しかしこの国際法廷は、内戦の敗者に対しても勝者に対しても、共に公平な法廷であることが出来るのでしょうか。